
出典:館山市役所
南房総館山というと海や漁業のイメージが強い街。
実際には、山にも恵まれ、非常に農業も盛んな土地柄です。
そのため、館山には「農業」に関したお祭りや神事が盛んにおこなわれているのです。
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洲宮神社御田植神事
館山の農業にかかわる神事として最も有名なのが「洲宮神社御田植神事」です。
これは洲宮神社で毎年元旦に行われている、その年の豊作を願って行われる行事です。
「洲宮神社御田植神事」では境内を田んぼに見立てて、その年の作高を占います。
まず氏子の長老が白装束を身につけて、「月よし、日もよし、神の御田植え申す」と唱えます。
それにこたえて氏子が竹製の鍬形で「田うない」の所作を行い、氏子の長老がモミを播いていきます。
そこに登場するのが「牛」。
本物の牛ではなく、幕をかぶった氏子の牛役の男性ですが、この男性が「モー」と声をあげながら飛び出してくるのを氏子が引っ張ります。
これが神事のクライマックス。
というのも、実はこの牛役の男性は、氏子の中で新しく結婚した新婿。
この元旦の神事には、その幸せを祝うという意味合いも含まれています。
その後、苗に見立てた松葉を投げて、「田植え」を行い、神事は終了。
この神事には、その年の豊作を願うという意味合いもありますが、新年に地域の結束を固めるという役割も果たしていると考えられます。
ちなみに、館山の大神宮である「安房神社」でも昭和20~3年ごろまで毎年6月23日に「御田植祭」が行われていました。
こちらの御田植祭は、神社の田んぼの周囲に縄を張り、こちらはその年に嫁いできた新嫁が網笠を付けた装束で田植えをするというもの。
そして太鼓の合図とともに氏子たちはそれぞれの家に帰って田植えをしたという、非常に風情のあるものであったようです。
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茂名の里芋祭り
洲宮神社御田植神事と同様に有名なのが「茂名の里芋祭り」。
こちらは館山南部の茂名地区で行われる由緒あるお祭り。
茂名地区は海に面していない内陸部にある集落で、その茂名地区の十二所神社で毎年二月の三日間に行われるのが「里芋祭り」です。
こちらは春先に今後一年の豊作や、住民の無病息災を祈願して行われるお祭りで、中でも最も有名なのが「里芋奉納」の儀式です。
これはこのお祭りのために作られた茂名の特産である「茂名芋」を神社に奉納する行事。
この行事を行うにあたって、まず約九十個の里芋を山形に積み上げて独特の「神饌(しんせん)」を作ります。
神饌というのは、神様に召しあがっていただくお食事のこと。
その神饌を十二社神社に奉納するのですが、その神饌を作るための里芋は、氏子の家が二軒一組になった「積み番仲間」によって栽培されたもの。
それが毎年交代で務める「年番」の家で神饌となって神社に備えられます。
その後、神饌の里芋は氏子の家に分配、無病息災のご利益のある食べ物として食卓に上ります。
神社に里芋を奉納するということもそうですが、このような「積み番仲間」といった形で共同で作物を備えるお祭りは日本でも珍しく、東日本の「共同祭祀」を考える上で非常に貴重とされ、農業にかかわる儀式や信仰の変遷を理解するための非常に貴重な存在として、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
ちなみに、かつては日本の文化の基本は「稲作」中心のものだというのが定説でしたが、最近になってむしろ里芋栽培を中心として「畑作」文化こそが中心だったのではないかという指摘も行われ、そういう意味でも「里芋祭り」は注目される存在なのです。
ミカリ祭り
今では地元の人にしか知られないようになりましたが、洲宮神社の「ミカリ祭り」もかつては非常に重要な存在でした。
地元では単に「ミカリ」と言われるこのお祭りは、神社の行事としては「御狩(おみかり)祭」と呼ばれ、昔は11月27日から12月3日の一週間にわたって営まれる大きな行事でした。
昭和の10年代までは神社の境内に「こもり屋」という建物があり、11月27日には地元の若い衆が集まって一晩中おこもりをするというのが習わしでした。
現在はその日に神事が営まれるだけになりましたが、かつてはうるち米にササゲ豆の入ったおかゆが配られるということもあったそうです。
また、現在でも洲宮神社の周辺では「ミカリ祭り」の影響から「物忌み」という習慣が守られています。
「物忌み」というのは普段の暮らしでは許されていることでも、お祭りの期間は避けるという風習で、「ミカリ祭り」の場合は、「わらや竹で出来たものには触ってはいけない」「針仕事をしてはいけない」などという決まりがあります。
生活習慣の変化から「物忌み」に対する意識は微妙に変化しているようですが、しかし11月27日には、むやみに畑に出てはいけないという言い伝えもあり、それだけは現在でもしっかりと守られているそうです。
そういった風習が県の無形民俗文化財として指定されています。
農業のためのお祭りは歴史も古く由来のはっきりしないことも多いため、これからの調査や研究が待たれますが、館山にはまだまだ面白い秘密が眠っていそうです。
アクセス
洲宮神社
住所:千葉県館山市洲宮921
TEL:0470-22-2000(館山市観光協会)
交通アクセス
車
富津館山道富浦IC~洲宮神社(約30分)
電車・バス
JR内房線館山駅下車~JRバス「安房白浜行」~洲宮下車(徒歩5分)
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