出典:for travel.jp
館山南部は南と西を海に面した風光明媚な場所です。
館山市内で唯一外房に面した海水浴場があり、晴れた日には東京湾を越えて富士山を望むこともできる場所。
現在は格好のドライブコースとして、日本の道百選にも選ばれている「房総フラワーライン」なども人気ですが、そんな館山南部にも多くのお祭りの伝統が残されています。
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独自の文化を誇る富崎地区
富崎地区は館山の最南端に位置する地区。
江戸時代には魚を江戸に送るための海路もすでに存在し、同時に江戸文化も流入したことで、館山の中でも独特の文化をはぐくみました。
明治に入ると延縄漁が盛んとなり、当時の人口密度は日本でも最も高い都市のひとつとして知られるほどとなるだけではなく、温暖な気候を求めて東京から避暑やリゾートを求める観光客も多く、そのことが富崎の文化をさらに成長させたと言われています。
地元には安房開拓伝説で知られる「阿波忌部族」が上陸したと言われる「駒ケ崎」や、「天太玉命(ふとだまのみこと)」を祀る男神山、「后神天比理刀命(あまのひりのめのみこと)」を祀る女神山などがあり、富崎は房総の神話の郷と呼べるかもしれません。
そんな富崎の布良地区の「布良崎神社」はその伝説を色濃く残した場所として知られています。
「布良崎神社」は房総半島のルーツのひとつといえることもあり、祭りは非常に盛んです。7月下旬に行われる祭礼に向けては、毎年6月の終わりから準備が行われるという熱の入れよう。
当日になると、神職のお祓いの後、神事が行われ、午後にはお神輿が町を練り歩きます。
このお神輿が布良崎神社のお祭りの最大の見どころです。
布良崎神社の神輿は台輪の寸法が四尺(約120センチ)と、大きなお神輿が珍しくない館山のお神輿の中でも、別格に巨大なサイズ。
担ぎ棒にはヒノキの丸太がそのまま使われるというだけでもその大きさが理解できますが、もちろん担ぐときの重さも尋常ではありません。
そのため、力自慢の漁師たちでも歯を食いしばらなければならないほどだとか。
別名「大天皇」とも言われるお神輿は夕方になると宮出しして、行列とともに海に向かいます。
なお、館山にゆかりの深い人物として、洋画家の青木繁があげられますが、この青木繁が滞在して作品を制作していたのがこの富崎地区。
青木繁の絵は教科書などで誰もが見たことがあるほど有名なものですが、その中でも代表作である「海の幸」は、この布良崎神社の大神輿「大天皇」の祭礼がヒントになったものだという説もあります。
その「大天皇」が浜に到着すると、お浜出の儀式が行われます。
その後、担ぎ手たちは、祭りの装束から姉さん化粧に長じゅばんという女性の姿に変身、今度は先ほどまでとは打って変わってにぎやかにお宮へと向かいます。
なぜ女性の姿に変身するかは諸説ありますが、大きなお神輿を担いでいた力自慢の男たちの女装には拍手喝采で、毎年お祭りの大きな楽しみとなっているとのこと。
かつては行列の先と後ろが見えないと言われるほどの盛大な規模を誇った布良崎神社のお祭りも年々人が減って行列も短くなっているそうですが、地元に愛されるお祭りとしてこれからも続いていってほしいものです。
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相浜の名物「浪除丸」
布良に隣接している相浜も富崎の祭りを語るときには欠かせない場所です。
相浜は地曳網の盛んな漁村として知られていて、「ナマダ干し」が名物となっています。
ちなみ「ナマダ」とは「うつぼ」のこと。
うつぼを開いて干す風景は相浜の冬の風物詩ともなっています。
「ナマダ」は現在も相浜ではよく食べられていて「ナマダ天丼」をはじめ、刺身やムニエル、鍋などとしても人気があるそうです。
そんな相浜の祭りに欠かせないのが、「浪除丸」です。
浪除丸は館山のお祭りに欠かせない「御船」のひとつ。
御船とは船をかたどったものの下に車輪を取り付けて祭りになると引き回せる山車のようなもので、浪除丸は館山に残る御船の中でもかなり古いものだといわれています。
「浪除丸」が作られた正確な年代は不明ですが、宝永年間に江戸の浜離宮に置かれていた将軍家の船から型を取ったものだという話が伝わっています。
現存する浪除丸は明治期に改修が行われたもので、その際、船尾の龍の彫刻などが加えられました。
祭りになると船には武具が並べられ、お囃子や踊りが披露される舞台ともなるという華やかなものとして知られています。
相浜の祭囃子もまた特徴のあるもので、テンポのいい祭囃子が多い館山の中では珍しくゆっくりとした上品な節回し。
浪除丸の優雅な形とぴったりだと人気を集めています。
相浜のお祭りでは、以前は浪除丸が町中を引き回されることから、別名「曳舟祭り」と呼ばれたものでしたが、祭りの担い手が不足し、現在は相浜神社の境内に置かれた御船の上で歌が披露されるにとどまっています。
いつの日か、再び勇壮な浪除丸が町をめぐる姿がよみがえって欲しいものです。
このほか、館山市の南端である神戸地区には安房の大神宮である「安房神社」などもあり、安房神社では元旦の歳旦祭に始まり12月31日の除夜祭まで27の神事が行われるなど、神事・祭礼に関しては非常に豊富な場所です。
もし館山のお祭りに興味がある方が訪れるなら、館山の南部は最適の場所です。
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