出典:萬祝染元 鈴染
「萬祝(まいわい)」というのは漁師の着物です。
といっても、単なる日常の普段着ではありません。
萬祝は豊漁の祝いとして、船主が船子へと配ったもので、非常に縁起のいい着物として現在でも人気があります。
スポンサードリンク
萬祝の歴史
出典:白浜海洋美術館
萬祝は、全国の太平洋側の漁村で同様の着物がありますが、ルーツは南房総の漁村と言われています。
大漁だったときのお祝いに、船を持っていた船主や網元から、実際に漁を行った漁師たちへの感謝のしるしとして贈られていました。
基本となるデザインは藍色の長い半纏で、そこに文字や宝船、タイ、鶴と亀など縁起がいいものをカラフルな糸や染色を使って鮮やかに描いています。
お正月やお祝いの席には、この萬祝を着て漁師が顔をそろえ、街を練り歩いたり、祝いの酒を酌み交わすのが習わしとなっていたといいます。
この風習は漁業が衰退する昭和30年代まで残っていたそうです。
やがて漁獲量が減り、魚の価格が下がるようになると大漁の祝いに萬祝を送る風習もすたれ、最盛期には南房総各地に多くいた職人も、現在では鴨川にわずかに残るのみとなっています。
現在にも受け継がれる技術
現在ではその高い技術と伝統が見直される傾向にあり、少しずつではありますが萬祝の需要も高くなっているのだとか。
最近では以前のような半纏の形だけでなく、工芸品として染め上げたものを額に入れて、名前などの刺繡を施した工芸品としての人気も高まっています。
萬祝を制作するには非常な手間と時間が必要です。
まず、必要となるのは下絵。
萬祝ならではの華やで精密な絵が描けるようになるには、長年の修業が必要だといいます。
さらに下絵を描いた後はそれを半纏に色付けしていきますが、これは萬祝染めといわれる鴨川の独特の技術。
顔料を使って色付けし、そこにのりを重ねていきます。
色が定着するまでには約三週間が必要で、その後、のりを取りながら細かい部分を仕上げていきます。
まさに芸術品といっていい手間と時間が掛けられている萬祝ですが、残念なことに、古い時代に作られたものはなかなか残っていません。
というのも、最盛期の萬祝は芸術品というよりもあくまでも漁師の正装。
実際に着用するためのものであったうえ、ほつれたり古くなったりした場合には、仕立てなおして日常のものとしてリサイクルされました。
そのため、萬祝の古いものの多くは失われてしまいましたが、現在でも最盛期の華やかな萬祝を鑑賞できる場所もあります。
「海の工芸美術 白浜海浜美術館」では、数多くの萬祝が展示されています。
こちらの美術館では、伝承を伝える絵巻物や、船の船主を飾る木造彫刻なども数多く集められていますが、特に充実しているのは萬祝のコレクションです。
美術館を設立した柳八十一夫妻によって収集された様々な萬祝が揃っています。
現在では海外の美術コレクターも熱い視線を注いでいる萬祝。
美術に興味がある方だけでなく、個性的なファッションが好きという方にも、ぜひ見ていただきたい南房総の工芸品です。
スポンサードリンク
アクセス
住所:千葉県鴨川市横渚620-1
TEL:04-7092-1531
交通アクセス
電車
JR外房線安房鴨川駅下車 徒歩10分
車
館山道君津IC~房総スカイライン~萬祝染元 鈴染(約1時間)
海の工芸美術 白浜海洋美術館
住所:千葉県南房総市白浜町白浜628-1
TEL:0470-38-4551
営業時間
10:00~17:00
休館日 毎週火、水、木と悪天候時
(但し、予約時は見学可)
駐車場あり
交通アクセス
電車・バス
JR内房線館山駅東口下車~JR関東「神戸経由白浜行」~野島崎灯台下車 徒歩10分
車
富津館山道富浦IC~野島崎灯台(約40分)
スポンサードリンク
コメント